日系大手日用品メーカーのタイ市場向けパッケージデザイン改善事例
クライアントはタイ市場で長年活躍する、日系大手日用品メーカー。リアルな商品棚の再現テストで消費者の視線を掴み、市場シェアを動かしたパッケージ改善事例を紹介します。
答えは「売り場」にあった
優れた技術力で開発した自信作が、市場で評価されない。長年海外で事業を展開する多くの日本企業が直面するこの課題は、製品の「品質」ではなく「伝え方」に原因があるのかもしれません。
本ケーススタディでは、タイ市場で長年シェア3位の壁を破れずにいた日系大手日用品メーカー様が、パッケージデザインという「顧客との最初の接点」を見直すことで、劇的なシェアアップを達成した事例をご紹介します。
クライアントの課題:高機能なのに響かない、シェア万年3位の壁
クライアントは、タイで数十年という長い事業の歴史を持つ日系大手メーカー。タイ現地での生産・販売体制を確立し、強力なグローバルブランドと競合しながらも、一定の市場地位を築いていました。
しかし、そのポジションは長年「カテゴリシェア3位」から動かず、停滞感が課題となっていました。
伸び悩むシェア、空回りする技術力
日本の細やかな最先端技術を搭載した新商品を投入しても、期待したほどの市場の反応が得られない。強力な競合に阻まれ、シェアを拡大する糸口が見えない。
クライアントは競争の激しいスーパーの棚で、自社製品が消費者の目に留まっていないのではないか、という強い懸念がありました。
アプローチ:「買い物の瞬間」を再現し、消費者の本音を掴む
私たちケーデンスは、課題の核心が「消費者が棚の前で意思決定する、わずか数秒間」にあると仮説を立て、パッケージ評価に特化したフォーカスグループインタビューを設計しました。
この調査の最大の特徴は、インタビュールーム内に実際のスーパーマーケットの棚を忠実に再現した点にあります。
無数の競合製品がひしめくリアルな棚を目の前に、参加者が「何に目が留まり、何を手に取るのか」「商品の特徴を瞬時に理解できるか」を観察・ヒアリング。机上の空論ではなく、「買い物の瞬間」における消費者のリアルな視線や思考を明らかにすることを目指しました。
発見と成果:「伝える技術」がタイ市場シェアを動かした
このユニークな調査から、クライアントが長年見過ごしてきた致命的な問題点と、それを解決する明確な答えが見つかりました。
タイ市場での敗因は「情報過多」にあったのです。
タイ現地での調査の結果、既存のパッケージは、優れた機能性を伝えようとするあまり情報量が多すぎ、「結局この商品は何に一番効くのか?」という最も重要な便益(ベネフィット)が、消費者に全く伝わっていなかったことが判明しました。
「シンプル」こそが正義
「もっとシンプルに」「一番の強みだけを大きく見せてほしい」というインタビューでの声を基に、伝える情報を大胆に削ぎ落とし、最も重要な便益を一目で理解できるパッケージデザインへと刷新しました。そして、 新パッケージで商品を再投入したところ、市場は即座に反応しました。販売量は目に見えて増加し、長年不動だったカテゴリシェアは3位から2位へと上昇。さらにトップシェアの背中が見えるポジションまで駆け上がるという、劇的な成果を達成したのです。
結論:製品力 × 伝達力 = 真のブランド力
本事例は、優れた製品力も、それが消費者に「瞬時に、正しく」伝わらなければ価値にならない、というマーケティングの本質を明確に示しています。特に競争の激しい市場においては、「良いものを作る技術」と同等に、その「良さを伝える技術」が勝敗を分けます。
消費者の購買行動をリアルに再現した調査を通じてこそ、企業が見落としがちな「伝え方」の課題は発見できます。この成功は、製品力に絶対の自信を持つ多くの企業にとって、大きな示唆となるはずです。