【メディア掲載】地方の販売力が問われる時代 クロス「マーケ戦略の現地化を」

2017年8月17日の「アジア経財情報誌 The Daily NNA タイ版」にてCross Marketing (Thailand) Co., Ltd. 代表取締役濱野英和のインタビュー記事が掲載されました。

タイ市場取り込みの鍵は、地方が握る――。総合調査事業のクロス・マーケティンググループ(東京都新宿区)のタイ法人の濱野英和社長はこう主張する。2年前に本格的な現地調査体制を整え、日系企業のマーケティング支援を強化。タイが消費地として注目されるが、まだまだ流通先が首都バンコクにとどまる企業が多く、地方を見据えたフェーズ移行が急務という。現地化の必要性とその条件を、濱野氏に聞いた。

地方の販売力が問われる時代
タイの地方市場の重要性について語るクロス・マーケティンググループの濱野氏=バンコク(NNA撮影)

――多くの日系企業が製造拠点を置くタイだが、消費地としての注目が高まっている。
タイを消費地としてみる企業のニーズに応えようと拠点を構えたが、現地で100 社以上を訪問してみると、実際にマーケティングのフェーズ移行を模索するメーカーが多かった。これまでバンコクのみに商品を流通させていたが、地方の中間層を取り込みにいこうとするなど、市場深耕の機運が高まっていると肌で感じる。消費者向け事業のフェーズは、輸入販売、OEM(相手先ブランド生産)、自社生産と大まかに分けられる。
輸入販売段階ではバンコクのアッパーミドル層がターゲットとなり、段々と人口のボリュームが大きい市場を取り込む商品を開発・投入していく。
ただ、多くの日系企業がまだ第1段階の輸入販売にとどまっている。1,000 万人弱のバンコクのみで勝負をしていては、販売が頭打ちになってしまう。ボリュームが大きい地方への販路拡大が求められている。

――タイの地方の魅力とは。マーケティングにどのようなことが必要なのか。
タイは所得格差が大きい。民間研究機関タイランド・マーケティング・リサーチ・ソサエティー(TMRS)によるタイの社会経済的地位(SES)の分類で、日系企業がターゲット層としているバンコクの中高所得者層が8段階のうち上から3番目の「B」以上だとすると、首都の人口の2割にしかならない。バンコクの低所得者層、地方の都市部、農村部までを対象にした商品開発とマーケティングを実施していかなければ、事業規模が大きくならない。
地方開拓にひとつ重要なことは、「トラディショナルトレード(TT、伝統的な小売業態)に届くか」だと思う。TTはタイに約50 万店舗あるとされ、モダントレード(MT、近代的な小売業態)の1万5,000 店を大きく上回っている。タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で比較的経済が発展しているが、小売市場の約5割はTTが占めている。経済発展とともにMTが増えていくことはあるが、TTがなくなることはない。 
日系企業のASEAN進出の道筋で、タイは少なくともメコン経済圏の試金石となる。タイの地方で商売するということは、陸続きのCLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)への流通にもつながっていくのではないだろうか。

――地方で主流のTTは、業態の複雑さなど敷居が高い面もある。
確かに、流通経路が大きく異なる。MTでは流通をとりまとめる本部から倉庫、各店舗へとラインが一本でつながっているが、TTでは販売代理店や卸売店が複雑に絡み合う。
きちんと商品が売られているか把握するのも困難な中、今年からASEANの店頭調査を定量的に行うサービス「モバイル・リテール・フォース・アジア」を開始した。タイでは全国に約100 人の調査網を張り巡らし、
顧客の要望に応じて販売状況や棚割などを調べることができる。MTのみならず、見えにくいTTの状況を可視化することで、日系メーカーを支援していきたい。
事業フェーズにより一概には言えないが、メーカーの販売を支援する立場から見ると、「日本で売れるから売れるだろう」という考えでは、より大きな市場を取り込もうとする際につまずく。マーケティングに力を入れ、
タイ市場を知った上での商品開発が必要になってくる。

――どのような業界で新規進出の傾向があるか。
日本の事業で大きな成長が見込めない中、多くの企業が海外事業を新たな成長エンジンにしようと動いている。例えば、最近は化粧品・スキンケアで新たに進出しようとする動きが目立つ。韓国系が大きなシェアを握っている中、いかに販売を増やしていこうかと試行錯誤している。調味料など飲料・食品の味の素、衛生用品のユニ・チャームなど、日系大手ではタイの中低所得者層まで販路を広げている先例がある。どれも日本の売り方ではなく、タイに合わせたマーケティング戦略が成功に結びついている。

――グループではアジア事業を積極的に進めているが、タイ事業の展望は。
日本人が常駐する日系調査会社として2年前にタイ法人を設立し、昨年に営業を開始した。今年は上半期(1~6月)だけで昨年通年を上回る案件を確保した。
 タイでは、日系メーカーの地方深耕を支援することで、間接的に地方の生活の質を豊かにしていきたいと思っている。先進国と比べると、所得水準が低いアジアはマーケティングに力を入れない傾向があるが、タイは比較的経済規模が大きく、中間層が増えている。生産地から消費地へと変わる中で、一役を担っていきたい。
(聞き手・小故島弘善)

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